ロボットは「記憶」で学ぶ 中国新興、「大脳+小脳」AIでホテル・製造業に照準
中国のAIスタートアップ「憶生科技(TranscEngram)」はこのほど、エンジェルラウンドで数億元(数十億円)を調達した。タイの大手財閥・CPグループ)傘下の中国生物製薬(SBP GROUP)のほか、浦東創投(PDVC)、張江ハイテクパーク、弘信電子(HON-Flex)などが出資した。
調達資金は主に、説明可能なAIモデルや物理世界モデルの研究開発、ヒューマノイド向けマルチモーダル動作データの収集基盤や学習パイプラインの構築、人材採用に充てる。また深圳市や上海市での研究センターおよび産業化拠点の建設も推進する。
憶生科技は2023年9月、香港大学コンピューティング・データサイエンス学院の初代院長である馬毅氏らAI研究者が設立した。汎用エンボディドAI向けの基盤モデルを開発し、ロボットの認識・予測・動作を統合するシステムの構築を目指している。
馬氏は、現在の大規模言語モデル(LLM)は主に静的データで学習しているため、膨大な知識を持つ一方で、物理世界での経験を通じて自ら検証・修正する能力が十分ではないとみる。実環境で機能する自律型AIには、実際の行動を通じて経験を蓄積し、内部モデルを継続的に更新する仕組みが必要だという。
これを実現するために、同社はシステムを「視覚記憶」と「筋肉記憶」の2層構造とした。視覚記憶は、空間や幾何学的構造、物体同士の関係性を理解する役割を担い、ロボットの思考をつかさどる「大脳」として機能する。一方、筋肉記憶は動作の軌跡や時系列データ、ロボット本体の制御法則を学習し、高頻度かつ安定的に運動を制御する「小脳」に当たる。
開発に際しては、説明可能な「ホワイトボックス型」のネットワーク構造を採用している。相互作用データの中からタスクの法則性を抽出することで、手作業のアノテーションや事前設定したタスクリストへの依存を抑えた。
紹介によると、記憶ベースの生成型「小脳」アーキテクチャは、従来のVLA(視覚・言語・動作)モデルと比べ、マルチタスク性能が3倍以上向上した。コーヒーや茶を入れる、衣類をたたむなど複数の作業を単一モデルで処理でき、社内評価では成功率が95%を超えたとしている。

同社は、この記憶モデルを異なるロボットにも適用できる点を特徴とする。ロボットハンドやグリッパーが異なっても学習済みスキルを転移でき、一度の実演から動作を習得するゼロショット学習にも対応する。これにより現場での学習コストや導入コストを抑えられるとしている。
製品群は4種類で構成する。ロボットの遠隔操作データ収集システム「EngramTeleOp」は、制御遅延を0.01秒以下に抑え、遠く離れた地域からの遠隔操作に対応する。「EngramEgo」は一人称視点の軽量ウェアラブルデバイスで、重心移動や体幹の使い方など全身の動作データを収集する。「EngramControl」は、デモデータから再現可能な運動記憶を抽出する。「EngramNav」は物体の位置や空間配置を記録し、非構造化環境でのナビゲーションや障害物回避を可能にする。
現在は、主な活用分野としてホテルサービスとハイエンド製造業に重点的に取り組んでいる。ホテルでは、カードキー発行、洗濯や衣類たたみ、衣類の配送、簡単な客室の片付けなど、標準化しやすい作業への導入から始め、段階的に一連のサービスを担えるようにする計画だ。航空・宇宙分野などハイエンド製造業では、「大脳+小脳」システムを既存の協働ロボットアームやデジタル化生産ラインに導入し、多品種小ロット生産でのフレキシブルな組み立てや品質管理の能力向上を目指す。
同社は上海市、深圳市、北京市、四川省に研究開発・データセンターを設置しており、ロボットメーカーの智元機器人(AGIBOT)、傅利葉智能(Fourier Intelligence)、銀河通用機器人(Galbot)、跨維智能(DexForce)などと共同でロボットへのシステム適合を進めている。四川省のデータセンターでは、ロボットハンドや触覚センサーの力覚データを収集し、精密操作向けスキルライブラリーの構築に取り組んでいる。

*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・36Kr Japan編集部)