中国の夏休みには「ロボット」がいる。ヒューマノイド熱狂、その先にあるもの【駐在員が見た中国】

「ハイテク中国」にあるのは大きな市場や技術だけではない。本連載では、日中経済協会北京事務所副所長の宮奥俊介氏が日々中国の現場を歩き回る中で体験した熱気、興奮、期待そして期待外れや裏切りも含め、リアルな姿を伝える。

人、人、人…。なかなかたどり着けない会場を前に、汗を拭いながら、夏になると足繁く通った音楽フェスを思い出す。

夏休みも終盤に差し掛かる8月末、北京で開催された「2026世界ロボット大会(WRC)」は373社の出展企業と、ロボット目当ての見学者でごった返していた。

会場では、家電大手ハイアール(Haier)の人型ロボット(ヒューマノイド)が洗濯などの家事をこなし、ガルボット(Galbot)は衣類を畳み、星動紀元(Robotera)は物流センターでの仕分け作業を披露。 奇瑞汽車(チェリー)傘下のメーカーが出展した警備ロボットは、警官の制服姿で交通整理をしている。

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他にもテニスや卓球をするロボット、音楽を奏でるバンドロボット、美女アンドロイドなどなど……見渡せば至るところでロボットが動いていた。

「手」の進化、そして残る距離

中でも今年の技術的な焦点の一つとなっていたのが、ロボットの「手」だ。

ロボットが工場だけでなく、物流や店舗、家庭など人間の生活空間に入り込むには、物を「握る」「つまむ」「持ち替える」といった細かな動作が欠かせない。

会場ではロボットハンドメーカーの霊心巧手(LinkerBot)などが、精巧な「手」をずらりと展示していた。同社の「Linker Hand O30」は20自由度を備え、各関節に独立した駆動ユニットを搭載。すでに量産段階に入ったという。

指先の動きまで緻密

握る、つまむ、指を曲げる。その動きは以前よりずっと人間の手に近づいている。ヒューマノイドの競争が、歩く、走る、踊るといった派手な動作から、実際の仕事をこなすための細かな能力へ移り始めていることを感じた。

一方、会場の熱気をそのままロボットの完成度と受け取るのは早い。

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多くのロボットの中で一際注目を集めていたのは、 中国の年越し番組「春晩」で華麗なパフォーマンスを披露して「国民的ロボット」の地位を獲得した宇樹機器人(Unitree Robotics;ユニツリー・ロボティクス)だ。ここでも最大級のブースを確保し、黒山の人だかりだった。来場者はスマホを構えながら真剣な眼差しでダンスなどのデモンストレーションに見入り、熱気に包まれていた。

Unitreeの王興興CEOは同大会で、ロボットが未知の環境でも、音声やテキストによる指示だけで約8割のタスクをこなせるようになるまでには、「早ければ2~3年、遅ければ5~10年」かかるとの見通しを示した。

目の前のロボットは驚くほど進化している。それでも、人間のようにさまざまな環境に適応し、自律的に働くヒューマノイドはまだ「完成品」ではないということなのだ。

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「群雄割拠」の裏側

展示面積5.5万平方メートルに及ぶ広大な会場。歩き回って実感したのは、本当に数えきれないほどのロボットメーカーが、ここ数年で次々と誕生していることだった。

中国工業信息化部(経済産業省に相当)によると、2025年に中国のヒト型ロボット産業の完成品メーカーは140社を超え、330種類以上の製品が発表されたという。

先日、別の機会で訪れた北京市内のデータ収集センターでは、その一端を目にした。

広いフロアでロボットにさまざまな動きを学習させるため、若い研究者やインターン生たちがひたすら作業を繰り返し、データを集めていた。華やかなロボットたちの活躍の裏には、こうした研究者たちの地道で人海戦術的な努力の積み重ねがある。そして、その人材の厚みこそが、今の中国には確かにある。

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会場では安川電機やNSK、ミスミなど日本企業の姿も数社見られた。一方、韓国やシンガポールは国単位でパビリオンを構えていた。中国企業がひしめく会場の中で、日本勢の存在感は必ずしも大きくなかった。かつて世界の先頭を走っていた日本の存在感の薄さに、やはり一抹の寂しさを感じた。

ただ、140社を超える中国メーカーがこのまま成長を続けられるわけではないだろう。誰が量産や商用化までたどり着き、誰が淘汰されるのか。ヒューマノイド産業の競争は、むしろこれからが本番なのかもしれない。

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進化する「ぼくのなつやすみ」

筆者の印象に残ったのは、ロボットだけでない。はしゃぎながらロボットに話しかけ、時にはぺたぺたと触ってスタッフから止められる子どもたちの姿からも、ロボットや中国の未来を考えさせられた。

深圳に拠点を置く、23年設立のスタートアップ「EngineAI(衆擎機器人)」は、少年たちの「かっこいい」を最も具現化したようなヒューマノイドを展示していた。

そう、格闘ロボットだ。

キックやパンチで手足を忙しく動かし、まるで生きているかのような躍動感を披露し、子どもたちの熱い眼差しを一身に集めていた。このロボットは自社の社長も「ぶん殴った」らしい、と同僚が教えてくれた。

少年たちの「かっこいい」を具現化ようなヒューマノイド

翻ってかつての筆者の夏休み。早朝からカブトムシ探しに始まり、セミ取り、夜には川へ行って星と蛍を眺めた。田舎ならではの自然との対話だった。自転車で肥溜めに落ちたことや、学校帰りに海でずぶ濡れになったりしたのも、忘れられない懐かしい思い出だ。

一方、現代の中国の夏休みには、ロボットがある。かつての少年たちが憧れた、漫画やアニメの中でのみ躍動していたロボットと、彼らは対話することができているのだ。

羨ましい。

同じ目線で

産業としてのヒューマノイド競争がどこへ向かうのかは、まだ分からない。だが、ロボットを特別な「未来の技術」ではなく、「身近な存在」として育つ世代が、すでにここにいる。

もしかすると、この中から未来の開発者や研究者が生まれるかもしれない。そう思うと、そんな子どもたちの姿はただの夏休みの思い出ではなく、次の時代への種蒔きのようにも見えてきた。

(注)本稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を代表するものではありません。

文:宮奥 俊介

日中経済協会北京事務所副所長。民間企業での勤務経験を経て2020年8月、一般財団法人日中経済協会に入職。調査部で中国経済情報の収集・発信、セミナー運営、ジャーナル企画編集などを担当。25年1月からは北京に駐在、日々最新の中国を追いかける。サマーソニックのthe strokesが見たかった夏でした。立命館大学大学院国際関係研究科修了。

36Kr連載:駐在員が見た中国

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