社員は全員AIーー中国で広がる「一人会社(OPC)」の稼ぎ方

中国では生成AIやAI エージェントの進化に伴い、「一人公司(One Person Company、OPC)」という働き方を紹介する記事を見るようになった。本来は企画、開発、営業、マーケティング、経理、顧客対応といった一連の業務をこなすためには、少なくとも数人のチームが必要だった。しかし現在では、LLMをはじめとした各種生成AIに加え、ノーコード開発環境やクラウドサービスを組み合わせることで、一個人でAIに業務を代行してもらえるようになった。

もちろん日本でも似た動きはすでに進んでいるのはご存知の通りだ。ただし日本は「一人公司」でも「一人会社」という名前でもなく、個人事業主や小規模事業者のAI活用として語られることが多い。その中国と比較した日本式活用というのは、既存業務の省力化目的の活用で、具体的には問い合わせ対応、見積もりや契約書の草案作成、SNS投稿の下書き、ECサイトの商品説明文の作成など、個人事業主の負担になっているような周辺作業を削減し、本業に集中する時間を作る役割を担っている。

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「1人+AIクラスター」で機能する

では中国の一人公司はどう日本と違うのか。中国メディアの報道では、一人公司の本質を「1人+AIクラスター」と表現することがある。これは1人が複数のAIエージェントを抱え、それぞれに役割を与えながら事業全体を回すというもの。 人間が担うのは、課題設定、業務フローの設計、最終判断、対外的な関係構築といった上流工程であり、AIはその指示のもとで資料作成、コピー生成、プロトタイプ作成、基礎的なカスタマーサポートを処理する。つまりAIを部下のように活用し、会社のように振る舞う働き方と言ったほうが実態に近い。

もう少し具体的に紹介していこう。よくあるものでは、バイトダンス(豆包など)やバイドゥ(文心)やテンセント(元宝)からリリースされたことで、これらを活用した「AIコンサルサービス」が多数登場した。教師、心理学者、弁護士、医師などの知識ある人に向いているサービスで、作成自体も数ステップで完成と非常に簡単だ。

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大手プラットフォームの参入と専門職のAIコンサル化

例えば、安徽省で恋愛カウンセリングを行う女性は、バイドゥで独自の「恋愛カウンセラーAI」を作成し、オンラインで恋愛相談を提供している。検索すると見つけやすいところに結果が表示される。以前は、この女性は多くの相談者から寄せられる一般的な質問に繰り返し答える必要があった。それがAIアシスタント導入により、24時間365日いつでも質問に答えることができ、他の業務に自身のリソースを割り当てることができるようになった。相談者が個別対応を希望する場合は、AIを使ってオペレーターに切り替え、オンラインで支払い手続きを行うことができる。お試しで導入した結果、月に3000元(約7万2000円)の所得増につながったという。

また、ある弁護士はオンライン法律相談サービスを提供するAIアシスタントを開発した。AIは基本的な質問には回答するが、より複雑な法律問題については、有料サービスを選択することで、担当者と直接相談できる。この弁護士は、AIを1カ月使用しただけだが、数万元(数十万円)の収入増になったという。ここでAIエージェントが果たす役割は、仕事のアシスタントとして、初期段階の反復的な問題を解決するのを助け、さらに収益化の可能性のある問題へと変換するのを支援するというもの。ゼロコロナ時代に医療現場でAIオンライン医療サービスが導入されたが、そのようなものが個人でも簡単に導入できるようになったわけだ。

AIで広がる”複業”

コンテンツ分野では、杭州で星境引擎科技を立ち上げた彭青云氏の事例は成功事例として比較的多く報道されている。同氏はAIショートドラマの制作や、AIノウハウ解説などを事業の柱とし、動画の企画、脚本、動画化までを AI前提で組み直している。同社は単なる映像制作代行ではなく、そこを起点に展開している点である。 ここには一人公司がAIによって「業種をまたぐ移動コスト」を下げ、複数の細い収益線を束ねるモデルになっていることが表れている。AIコンテンツを扱う一人公司がAIで素早くかつ顧客が満足する品質でコンテンツを作れるのは、ツールの品質向上もあるが、それまでの企業で働いた経験も役立っているという声がある。

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「一人公司」、あるいは「OPC」がビジネストレンドとしてしばしば中国メディアで出るようになり、テック系展示会でも一人公司展示ブースが登場するようになった。一人公司を支援しようとするネット大手や地方政府も登場した。例えばテンセントがバックアップする一人公司イベントはあるが、これは自社のサービス圏を増やすべく、一定額のトークンプレゼントをすることで優秀な一人公司を囲い込もうとする試みである。また、各地方政府も、起業サポートやトークン補助などの支援策を打ち出し、専用のコミュニティやオフィスを整えることで、これらの一人起業家を呼び込もうとしている。

AI技術の成熟と労働市場の「35歳の壁」

なぜ今、一人会社が中国で話題になっているか。その背景には、まずAI技術の成熟がある。非エンジニアでも自然言語からアプリやワークフローを構築できる環境が整い、画像や動画、コピー、データ整理といった作業が手頃なコストで自動化できるようになり、起業の障壁は大きく下がった。次に大きいのは、雇用の不安定化である。中国では「35歳の壁」と呼ばれる年齢不安や、若年層の就職難がしばしば社会問題として取り上げられており、そのアンチテーゼ的な意味でも一人公司は紹介されている。

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さらに、自国内の独自サービスで完結している中国では、ショートムービー、ライブコマース、ミニプログラム、AIエージェントなどの機能が比較的近くにまとまっている。そのため、個人が試作から販売までのハードルが低く、高速で回しやすい。 他方、日本では、販売、集客、顧客管理、決済の仕組みが複数の外部サービスに分断されがちであり、AIを導入しても事業全体を一人で編成・管理するには、より強いセルフマネジメント能力が求められる傾向にある。 ただし、その分、日本の一人起業は派手な急成長よりも、継続的な取引や信頼関係を土台にした安定モデルを築きやすいともいえる。

日本と中国ではネット環境や、AI制作コンテンツに対するユーザーの受容性(拒否感の有無など)に違いがある。しかし、中国独自のネットワーク環境の中で、一人公司がスピーディーにエコシステムを使いこなして事業を展開する姿は、今後の日本市場にとっても大いに参考になりそうだ。

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(文:山谷剛史)

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