電動車椅子に見えるが、中身は「フィジカルAI」 シンガポール発Strutt、累計160億円調達

次世代のパーソナルモビリティーを開発するスタートアップ「Strutt(若創科技)」がこのほど、プレシリーズAの追加ラウンドで資金を調達し、累計調達額が1億ドル(約160億円)近くに達した。世界的なモビリティー企業や中国IT大手傘下の投資ファンドなどが出資したという。

同社が手がける「Strutt ev1」は、電動車椅子に近い外観の一人乗りモビリティーだ。シートとアームレスト、フットレストを備え、4つの車輪をそれぞれ独立したモーターで駆動する。複数のセンサーで周囲を認識する走行システムを持ち、アクティブステアリングと4輪独立サスペンションを組み合わせたシャシーを採用。屋内や都市部の公共スペースに加え、芝生や未舗装路も走行できる。

これまで小型モビリティーや移動支援ロボットの「スマート化」は、電動化や基本機能の追加にとどまることが多かった。若創科技が目指すのは、複雑な環境でも直感的かつ安全に扱える仕組みだ。操作の主体はあくまで利用者に置きつつ、本体が周囲の状況を継続的に認識して走行状態を判断し、運転サポートや障害物回避を担う。

シンガポール「Strutt」、電動⾞椅⼦をスマートに AIで運転⽀援賢く

3年かけて量産へ

若創科技は2023年設立。本社をシンガポールに置き、研究開発とサプライチェーンの拠点を粤港澳大湾区(広東・香港・マカオグレーターベイエリア)に構える。

EV1は2026年5月に量産・納入を開始し、これまでに数百万ドル規模の販売実績を上げた。創業者の洪小平CEOによると、開発から量産準備までに約3年をかけ、低温、高地、デコボコ道、芝生、斜面といったさまざまな環境で検証を重ねたという。

設計段階から修理やメンテナンスのしやすさにも配慮した。ソフトウエアの不具合は遠隔診断とOTAアップデートで対応し、本体は可能な限りモジュール化することで、海外でも現地で修理・メンテナンスしやすい設計としている。

欧米で先行、試乗者の半数近くが購入

EV1は現在、世界数十カ国・地域で展開されている。同社はまず、パーソナルモビリティー市場が成熟し、移動支援技術への理解も進んでいる欧米を優先してきた。製品発表から試乗、販売、納入、アフターサービスまでの一連の事業モデルを現地で検証し、その経験を他市場に生かす狙いだ。

製品の性格上、スペックや動画だけでは価値が伝わりにくい。そこで海外の主要都市では実際に試乗できる機会を増やしており、同社によれば試乗者の半数近くが購入に至っているという。ユーザーコミュニティーから寄せられた声も、操作性やマッピング、運転支援、シートのフィット感などの改善に反映している。

中国市場へ、ブランド名は「昂首」

今回の調達資金は、個人向けフィジカルAIの技術開発、グローバルな販売網の構築、そしてEV1の量産と納入などに充てる。

あわせて中国市場向けに「昂首」ブランドを立ち上げ、EV1を「昂首EV1」の名称で投入すると発表した。2026年下半期から事業を開始する予定で、すでに第1弾の試乗予約の受け付けを始めている。

目指すのは「移動」の先

洪CEOは、同社が作ろうとしているのは既存のパーソナルモビリティーの改良版ではなく、認識・意思決定・制御を一体化した新しいデバイスだと語る。

EV1は拡張性を持たせた設計になっており、将来的にはロボットアームや各種の作業ツール、マルチモーダルAIを組み合わせることで、物の取り出しや軽い荷物の運搬、衣類の片付けといった家庭内作業への応用も想定している。まず利用者の移動を支え、やがては利用者のニーズを理解して個人的なタスクもこなすAIデバイスへ——それが同社の描くロードマップだ。

いきなりヒト型は作らない 「手のあるロボット犬」から攻める中国Vbotの戦略

*1ドル=約160円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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