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イーロン・マスク氏といえば、最初に連想するのは電気自動車(EV)大手の「テスラ」だろう。テスラはEVをインターネットに接続することで新機能の自動アップデートを可能にし、低コストでの量産が実現することも証明した。さらにオンラインとオフライン店舗の融合による販売モデルを確立し、従来のディーラー経由の販売方式を撤廃するなど、自動車をめぐる従来の常識を一新した。
そんなマスク氏が次に目を付けたのは衛星通信事業だ。マスク氏率いる「スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)」はここ数年、低軌道通信衛星の打ち上げに力を入れている。2013年に商業衛星のテスト打ち上げを開始。2015年には低軌道小型通信衛星「スターリンク」計画を発表した。3段階に分け最終的に計1万2000基の衛星を軌道に乗せ、巨大な衛星通信網を構築することで、地球規模で低コストのインターネット接続サービスを提供する。これらの衛星は自動運転レベル4やレベル5の実用化を支える基盤にもなる。
一方で同分野にはライバル企業も相次いで参入し、軌道の奪い合いが始まっている。「スターリンク」計画では高度340キロ、550キロ、1150キロという異なる3つの軌道に、人類がこれまでに打ち上げた総数を上回る1万2000基の衛星を打ち上げる。これに対し、ライバル企業の衛星数は数百から数千程度だ。計画は初期段階で課題は多いものの、数の力でいち早く軌道を「占領」するのは賢明な戦略といえる。
マスク氏はさらに、「宇宙」と並行して「地中」にも触手を伸ばしている。傘下のトンネル掘削企業「ボーリング・カンパニー」と次世代交通システム「ハイパーループ」がその役割を担う。道路の渋滞は多くの国が抱える共通の課題だが、一部の自動車メーカーやテクノロジー企業は、「空飛ぶ自動車」などを用いた移動手段の転換によって解決を図ろうとしている。一方、マスク氏は地下にトンネルを掘って車両を走らせる新たな交通システム「Loop」構想を打ち出した。
「Loop」では自動運転機能を持つEVのみが走行できる。最高時速は200~250キロに達し、掘削コストは鉄道の10%未満で済み、交通渋滞や環境汚染の問題も解決する。マスク氏は8月末に上海で開かれた世界人工知能(AI)大会で、ボーリング・カンパニーは中国でのプロジェクトも始動させる予定だと明かしている。
また2013年に構想が発表された次世代交通システム「ハイパーループ」では、都市間の移動時間の短縮に挑む。真空に近いチューブ状のトンネル内に、専用の車両を音速に近い時速1200キロで走らせるという計画で、ロサンゼルスからサンフランシスコまでの距離なら30分で移動可能になるという。
マスク氏が率いるこれらの企業を形容するなら、既成概念を「覆す」という言葉が相応しいだろう。スペースXは人類のモビリティスタイルを、スターリンクは衛星通信事業を、そしてLoopは道路、ハイパーループは鉄道の定義をそれぞれ覆す存在となっている。マスク氏は今、私たちの知らぬ間に人類の未来のライフスタイルを塗り替えようとしているのだ。
(翻訳・鈴木雪絵)
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