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電子制御サスペンションの開発を手がける中国スタートアップ「時駕科技(SDRIVE)」がこのほど、シリーズAで数億元(数十億円超)を調達した。出資は自動車大手の吉利グループ系の吉利星源などが主導し、同済大学科創基金も参加した。創業者の烏偉民氏によると、資金は主に第3世代フルアクティブサスペンションのコア技術の開発や、年産50万台のスマート製造センターの建設に用いられる。
エアサスペンションは、従来のコイルスプリング式とは異なり、空気圧を調整して車体の高さやサスペンションの硬さを変えるもので、さまざまな状況に合わせて乗り心地や安定性を高められる。しかし、中国では国産化率が低く、生産コストが高いため、80万元(約1600万円)以上の高級車にしか採用されていなかった。

こうした中、中国の新興電気自動車(EV)メーカーの蔚来汽車(NIO)が2015年、中国ブランドとしては初のエアサスペンション搭載モデル「ES8」を発売、19年にはコストを抑えるためにエアサスペンションの自社開発に着手した。烏氏は当時、蔚来汽車のシャシー制御システム部門責任者として開発プロジェクトを率いる中心メンバーだった。この経験をもとに、2021年にSDRIVEを創業した。
現在「エア供給モジュール」「フルアクティブエアサスペンションシステム」という2つの主力製品を展開している。
エア供給モジュールは、コンプレッサー、電磁弁、コントローラー、エアドライヤー、フィルターなど複数のユニットを一体化した製品だ。空気を内部で循環させる技術を採用することで、システムの小型化と静音化を実現し、稼働効率も向上した。また、モジュール化や効率向上によって、システム全体のコストも低減した。同社の試算では、既存の主流製品と比べて大幅なコスト削減が可能であり、20万元(約400万円)台の中・低価格EVにもエアサスペンションを搭載する動きが加速すると見込まれる。

加えて、このモジュールはハードウエアとソフトウエアを分離した設計を採用しており、次世代の中央演算装置やE/Eアーキテクチャ(電気/電子アーキテクチャ)にも対応できるオープンなインターフェースを備え、車両に搭載されているシステムの互換性や集積度を向上させられる。
一方のフルアクティブエアサスペンションシステムは、従来のセミアクティブ式サスペンションをベースに、油圧機能を追加することで、ばね(スプリング)の剛性や車両姿勢をリアルタイムで制御できるようにした製品だ。減衰力のみを調整していた従来方式と比べて、およそ30%の性能向上を果たしているという。

製品開発の過程を振り返った烏氏は「多くの人は、エアサスペンションは単にばねを空気に変えただけだと考えているが、本当に難しいのはそれを制御することだ。メルセデスは乗り心地を、BMWは操縦安定性をアピールしており、ソフトウエアがその鍵を握っている。これらを実現する制御アルゴリズムは海外企業の独壇場だったが、今では当社でも独自開発できるようになった」と話す。
実際、SDRIVEは路面状況や走行状況に応じて車両姿勢やサスペンションの硬さを自動調整する独自アルゴリズムを開発しており、これが同社のコア技術の一つとなっている。
ただし、アルゴリズム開発に加え、クリアすべき大きな技術的課題が3つあった。
まず、閉鎖型のエア供給モジュールを長時間安定稼働させるためには、極めて高い気密性・耐久性・圧力保持機能が不可欠である。同社は材料や構造、生産技術のブラッシュアップにより、最高15barの圧力で500時間以上の連続稼働を実現した。
次に、モジュールの応答速度や精度を左右する電磁弁システムについては、独自の設計・制御方式を導入し、複数の回路を迅速かつ正確に切り替える技術を確立。さらなる高性能化に向けた改良も進めている。
最後に、構造面での統合が大きな課題だった。従来のエア供給システムは各ユニットが分散しており、配線の長さや騒音、車載設計の煩雑さがネックだったが、これらを一体化することで、システムの整合性・性能向上とコスト低減の両立に成功した。
「中国車に履かせた『ゴム靴』を、快適な『エアクッションシューズ』に履き替えたい」——烏氏はそう語り、その理想を形にすべく製品開発に力を注いでいる。
*1元=約20円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)
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