動物実験に代わる「臓器チップ」、FDA規制緩和で脚光――中国・Xellarが約46億円調達
製薬業界は今、大きな転換点を迎えている。動物実験に依存した従来の手法から脱却し、より高精度で効率的な代替手法への切り替えが進みつつあるのだ。
米国食品医薬品局(FDA)が2022年に公表した「近代化法2.0」では、医薬品開発に必須とされていた動物実験の要件が撤廃され、動物実験に代わる新たな手法への関心が高まり続けている。26年3月、FDAは「オルガノイド(臓器の構造や機能を再現した3次元組織)」や「臓器チップ(Organ-on-chip)」、AIを活用した毒性予測モデルなど、新たな手法(NAMs)による新薬審査の受け入れを開始すると発表した。
この規制緩和に伴い、オルガノイドや臓器チップを手がける企業が資本市場で一躍注目を浴びるようになった。中国スタートアップ「耀速科技(Xellar Biosystems)」も2026年4月、中国生命保険傘下の国寿股権投資(China Life Private Equity Investment)が単独で主導するシリーズAで2億元(約46億円)を調達した。
耀速科技は2021年末に米ボストンで創業、24年にコアチームが中国に戻り、研究開発および運営拠点を上海市に移した。創業者の謝鑫氏は、「規制緩和により新技術が実際の研究開発プロセスに組み込まれやすくなり、高品質データと応用事例の蓄積が加速する」と指摘。同社の技術プラットフォームが新薬臨床試験(IND)申請システムに直接統合され、新薬開発の標準ツールとなる可能性があると説明する。
サノフィ、ファイザーやロレアルなどとも提携
商用化の面では、すでに本格展開の局面に入っている。現在、仏サノフィや米ファイザーといった世界的な製薬大手に加え、仏ロレアルなど化粧品大手とも提携し、臓器チップを医薬品や化粧品の毒性評価に活用している。こうした取り組みは、すでに検証を目的とした初期の提携から、長期的な共同研究へと移行しているという。これにより、2025年には売上高の大幅な伸びがみられた。
製薬会社との協業に加え、臨床応用の開拓も進んでいる。河南省腫瘤医院と連携し、再発・難治性の婦人科がん(卵巣がん・子宮がん)を対象とした医師主導臨床研究(IIT)を実施中だ。これらの疾患は個体差が大きく、薬物耐性も高いという特徴があるが、臓器チップとAIによる画像解析を組み合わせることで、医師は患者の薬剤反応データを短時間で取得でき、患者一人ひとりに応じた治療計画の策定が可能になる。2026年3月時点で、本研究にはさまざまなタイプの婦人科がんを患う31人が登録・参加している。初期データによると、腹水由来のオルガノイド・臓器チップを使った薬剤感受性試験の成功率は88.9%にのぼり、臨床フィードバックを得られたケースでは予測精度が100%に達した。
技術面ではAIと臓器チップの融合を最重要課題と位置付ける。画像・表現型・分子データなどマルチモーダルデータに対応したモデル開発を進めており、グラフ学習と表現型を軸とした生物データ解析のフレームワーク構築が進んでいる。
「この段階での開発の重点は、個別のモデル性能の向上ではなく、臓器チップ・AI・自動化プロセスを一体化したクローズドループを構築することにある。これにより、データを継続的に生成し、メカニズムを理解して、それを新薬開発に活用できるプラットフォームの実現を目指す」と謝氏は語る。今後は仮想オルガノイドや仮想細胞のモデル化をさらに進め、化合物スクリーニングや作用機序の予測、創薬ターゲットの発見への応用を図る方針だ。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)