中国EV、価格競争が生んだ「実体のない繁栄」——自動車首脳が語る脱・消耗戦
中国広東省深圳市で「大湾区モーターショー」が5月29日に開幕し、初日のフォーラムでは中国の自動車業界を代表する経営陣が一堂に会した。電気自動車大手・蔚来汽車(NIO)の李斌CEOをはじめ、零跑汽車(Leapmotor、リープモーター)の徐軍COO、阿維塔(AVATR)の王輝董事長、賽力斯(Seres、セレス)の張正萍董事長、メルセデス・ベンツ中国の幹部、元戎啓行(DeepRoute.ai)の周光CEOらが登壇。価格競争やスペック競争が激しさを増すなか、シェア拡大、収益性、技術投資、ブランド価値のバランスをどう取るべきかという業界共通の課題について意見を交わした。
核心を突いた言葉は阿維塔の王氏から出た。「利益の伴わない販売台数は『見せかけの数字』であり、価格競争で築いた成長は『実体のない繁栄』に過ぎない」。
同氏は乗用車市場情報連席会(乗連会)のデータを挙げ、中国の自動車販売台数は2025年に3440万台を超えたものの、業界の利益率は4.1%にとどまっており、26年1〜2月には2.9%まで低下したと指摘。低価格競争から価値を競うフェーズへ、販売中心の戦略からブランド力強化への転換を訴えた。親会社の長安集団は今後5年間に投入予定だった車種を63車種から36車種に絞り込むという。
NIOの李氏は「価格競争は終息しつつあるが、競争環境が非常に厳しいことに変わりはない」と述べ、今後は製品・技術・ブランド力・エネルギー補給網・経営効率を含めた総合力が問われると見る。
同社の1〜4月の納車台数は前年同期比71%増の11万2000台で、直近2四半期は営業黒字を確保した。今後はレンジエクステンダー車やプラグインハイブリッド車(PHEV)は手がけず、多目的車(MPV)の開発も当面は見送り、基盤技術の開発とバッテリー交換システムの強化に集中する方針だ。
リープモーターの徐氏は、航続距離や演算性能といったスペックも、もはや勝敗を決める要素ではなくなったと指摘。例えば、日常生活の多くの場面では、航続距離が700kmか1000kmかの違いはそれほど大きな意味を持たない。そうしたわずかな差のために生じる追加コストを消費者に負担させるべきではないと主張し、「値下げは誰にでもできるが、コスト削減には実力が必要だ」と語った。
セレスの張氏は「安全こそ最大のぜいたくだ」と強調する。高級車とは単に価格帯を引き上げることではなく、安全性、信頼性、品質、ユーザー価値を総合的に提供することだと強調した。米テスラが高度運転支援システム「FSD」を中国市場に投入することを見据え、ファーウェイと共同開発する「問界(AITO)」ブランドの新型車「問界M9」には6つのLiDARと40個のセンサーを搭載し、複数のセンサーを統合することで人間の認識能力を上回る安全性能を目指すとした。
日本の読者にとって示唆的なのは、メルセデス・ベンツ幹部の発言だ。中国事業の研究開発・調達を統括する高級執行副社長、ドラモンド・ジャコイ氏は、自動車誕生から140年がたった今、業界はAI主導の新たな変革期を迎えたと指摘。北京と上海にある開発センターは、ドイツ国外で最も充実した開発拠点となっており、AIアシスタントやSクラス向け後席エンターテインメントシステムなどグローバル市場向けプロジェクトを中国チームが主導していることを明かした。
提携先にはバイトダンスやテンセント、Momentaなど中国大手企業が名を連ねる。中国はもはや新技術を検証する受け皿ではなく、メルセデスの世界的なAI車両開発にとって重要な「イノベーション源泉」になりつつある。その一方で、安全性は譲れない基本条件とし、最高レベルの機能安全規格「ASIL-D」に準拠して開発していると強調した。
このほか、自動運転の技術アプローチを巡る議論も焦点となった。自動運転スタートアップ、元戎啓行の周氏は、「小規模のAIモデル」では「シーソー現象」に陥りやすいと指摘する。ある場面に合わせて性能を向上させても、別の場面では逆に性能が低下する場合があるということだ。同氏は、現在のトレンドである「大規模AIモデル」への移行は、単にモデルを大型化したものではなく、技術の抜本的なパラダイムシフトだと強調。小規模のモデルが局所的な特徴の識別や、一種の条件反射的な制御を得意とするのに対し、大規模AIモデルはシステム全体を俯瞰する認識能力と、未知の環境にも適応できる高い汎化能力を備えているという。
フォーラムが映したのは、中国の自動車産業が販売台数・価格・スペックだけを競う段階から脱却し、収益性、ブランド価値、技術基盤、組織力を軸とする新たな局面に入りつつあるという現在地だ。自動車業界では、生き残りをかけた厳しい競争がすでに始まっている。この激動の時代を勝ち残るのは、スピードと品質を兼ね備え、確かな技術とユーザーへの深い理解を持ちあわせている企業だろう。
文:車東西(WeChat公式ID:chedongxi)、作者:Janson
(翻訳・編集:36Kr Japan編集部、畠中裕子)