ロボットは「考える」だけでは働けない 中国・西湖機器人、「全身制御AI」で120億円調達
エンボディドAIとロボット技術を開発する中国のスタートアップ「西湖機器人(Westlake Robotics)」はこのほど、シリーズAの資金調達を実施した。この半年間で4回目の資金調達となり、調達額は総額5億元(約120億円)に達する。今回は賽富投資基金(SAIF Partners)、小苗朗程(Xiaomiao Langcheng)、河南投資集団匯融基金、海願基金などが出資した。資金は主に人型ロボット(ヒューマノイド)の全身制御モデルの開発やチーム構築に充てられる。
西湖機器人は2024年1月、中国浙江省杭州市にある新型研究大学「西湖大学(Westlake University)」の終身教授である王東林氏と張岳氏が共同で立ち上げた。同大学のAI・ロボット分野の研究成果を事業化する役割を担い、エンボディドAI向け基盤モデルとロボット本体の一体的な開発に注力する。コアチームにはアリババやテンセントなどテック大手や、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学など名門校出身の研究者が集まっている。
現在、ロボット業界では視覚認識や言語理解、タスク計画能力などを強化する取り組みが主流となっているが、西湖機器人は人型ロボットの全身を協調させる運動制御に重点を置いて開発を進めている。
AIモデルの進化によってロボットが周囲の環境をより正確に理解するようになる一方で、新たなボトルネックも浮かび上がってきた。ロボットが「何をすべきか」を理解できても、それを安定して「実行する」のは難しいという問題だ。特にドアを開けたり、物を片付けたりする作業では、両手を制御するだけでなく、数十の関節を連動させながら重心を調整し、バランスを保つ必要がある。制御の複雑さは、決められた位置で作業するロボットアームをはるかに上回る。
王氏は、ロボットアームに広く使われているVLA(視覚・言語・行動)モデルをそのままロボットに転用しても、複雑な全身運動を制御するのは難しいと指摘する。このため、西湖機器人は汎用運動モデル「GAE(General Action Expert)」を独自開発した。深層学習モデルの一種、Transformerをベースに、ユーザーの指示を全身の動きに反映できるほか、モーションキャプチャー技術で人の動きをリアルタイムに再現することも可能。事前に動きをプログラムすることなく、全身の動きをその場で生成でき、異なるロボット本体への展開や遠隔操作にも対応する。

汎用運動モデル「GAE」を使い1300km離れた場所で遠隔操作を実現
GAEはすでに、エンターテインメントや科学研究、巡回点検などに活用され、受注額は数千万元(数億円)に達する。遠隔操作と組み合わせれば、通電状態での作業など危険を伴う現場にも対応できる。
西湖機器人はさらに「大脳・小脳のデュアル事前学習」アーキテクチャを打ち出している。「大脳」はVLAモデルと世界モデルからなり、環境認識やタスク理解、意思決定を担う。「小脳」にあたるGAEは行動指令を具体的な全身の動きに変換し、バランスや姿勢の修正をミリ秒単位で行う。2つのモデルは別々に学習や改良を施すことができ、標準化されたインターフェースで接続することで、異なるロボット本体への適応性を高めることができる。
ロボット業界では、高品質な全身データの不足が大きな課題となっているが、同社は「実地訓練」に重点を置いたデータ収集を進めている。緊急救援、電力設備の巡回点検、家庭サービスなど、実際の現場にロボットを投入し、全身の姿勢情報を記録した実機データを収集する。
2026年には、自社開発した初の人型ロボット「西湖O1」を発表した。ただ、同社はロボット本体の開発を主力事業とする考えはなく、自社開発のロボットは主にシミュレーション環境と現実世界とのギャップを埋めるために活用するという。

コンビニで働く人型ロボット「西湖O1」
シミュレーション環境では、機械的なしきい値や伝達機構の遊び、関節の応答遅延などを完全に再現することは難しい。そのため、シミュレーション環境では問題なく動いていたモデルでも、実機に搭載すると動きがぎこちなくなったり、バランスを崩したりすることがある。西湖機器人はロボット本体を自社開発することで、「実機を使ったテスト・データ収集・モデルの改良」という開発サイクルの構築を進めている。将来的には、他社製ロボットへの展開や完成機ソリューションの提供なども視野に入れているという。
現在、西湖機器人はアルゴリズムや基盤モデルからロボット本体までを広くカバーした技術体系を確立している。長期的には幅広いロボットや作業に対応できる汎用モデルの構築を目指しており、GAEはその商用化を進めるうえでの重要な技術アプローチとなっている。

「WAIC 2026」の会場でダンスパフォーマンスを披露する「西湖O1」
商用化も順調で、アリババグループや京東集団(JDドットコム)、米インテルなどと緊密な提携関係を構築しており、現在の手持ち受注は1億元(約24億円)近くに上る。事業は教育・研究やデータ収集、電力設備の巡回点検など幅広い分野に及ぶ。また浙江省竜遊県政府とは、人型ロボットの実地訓練拠点を共同建設する契約を結び、大規模な商用化に向けた取り組みを加速させている。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)