中国のネット時代の代名詞「デリバリー」と「配車」で稼げなくなった人々

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中国でモバイルインターネット普及以降に多数見かけるようになったデリバリーや配車サービス。デリバリーでは黄色いスタジャンの「美団(Meituan)」や青の「eleme」が、配車サービスでは「滴滴(Didi)」ほか様々な企業が参入し、生活を便利にしただけでなく、多くの人に雇用の機会を生み、働けば働くだけ高収入が得られた。しかし夢のような環境はゼロコロナが終わり、これから稼ぎ時というときにドライバーが食えない状態になりつつある。中国各地で働くドライバーの声を聞いたところ、似たような傾向がみられた。日本や世界でフードデリバリーや配車サービスがある。中国と同じ道をたどるのかたどらないのか。

新型コロナ、出かけずに宅配を頼む人が急増 フードデリバリーのスタッフが買い物の代行も

補助金もあって稼げるサービス黎明期

北京の滴滴運営A氏「2015年頃は配車業界全体が利用者を増やそうと躍起になってたボーナス時期でした。当時は大手プラットフォームが補助金を出して客を増やすことに夢中でした。乗客が10元払えば運転手は30元を受け取ることができたのです」。

北京の滴滴ドライバーB氏「私は滴滴のドライバーをサービスローンチ時に登録し、かれこれ9年近くやってます。当時、大手サービスは補助金に夢中で、滴滴も補助金を多数出していました。その補助金目当てで家族や友人に注文を手伝ってもらったりもしました。違反行為で見つかった場合は罰金が課せられますが、当時は誰もがそれを行っていました。これで月給数万元(約数十万円)稼げました。私は1日650元(約1万3000円)稼ぎ、さらに350元(約7000円)の補助金で1日1000元(約2万円)の収入がありました。EVを利用していて電気代は1カ月900元(約1万8000円)くらいです」

深センの美団ライダーC氏「私は2016年の美団の最初期のライダーで、当時美団は社会保険と3000元(約6万円)の基本給を提供していました。時間と自由は非常に魅力的でした。ただ美団が直接管理するので、当時の参入障壁は現在よりもはるかに高く、物流経験者を優先してました。2017年3月から、美団は乗客を第三者の請負業者に委託し始め、乗客は社会保障やその他の福利厚生を享受できなくなりました」

A氏B氏は、サービスのローンチ時は稼げたという。サービス利用者を増やすために、配車でもフードデリバリーでも、それ以外の様々なネットサービスで企業が補助金を出して客寄せを行ったことを記憶している読者もいるだろう。美団も当初は基本給+歩合給+社会保障と手厚く条件はよかった。ただC氏は「当時はモラルがよくなく、電動自転車や食事が盗まれることがよくあり、自ら損失分を支払ったこともありました」とも語る。

値下がりとシステム改善のサービス過渡期

初期ボーナスはやがてなくなり、企業は消耗戦に突入していく。資金調達イベントも減り、自身で儲けなければいけなくなる。そのしわ寄せを受けるのはドライバーだ。

B氏「2018年に高德やT3といったプレーヤーが参入しました。利用者は安いサービスを選びたくなるので、値下げのしわ寄せはドライバーにもやってきました。1日あたり約10時間を運転し、1日に少なくとも20件の注文、月で600件の注文を休憩なし、車の充電や食事もするので実質12時間労働でした。これで手元に残るのは8000元(約16万円)となり、初期段階に比べかなり安くなりました」

A氏「現在、滴滴を運転するドライバーが多すぎます。滴滴のドライバーは儲かると聞いて、他所から北京に来てレンタカーを借りて滴滴のドライバーになる人が多くなりました。いろいろ差し引いても地元で働くより稼げますから」

C氏「ライダー各人の注文量がどんどん減り、月に1万元(約20万円)以上稼ぐのが難しくなりました。プラットフォーム全体の注文量が増加しているのですが、配達をより早くしようと多くのライダーを採用した結果です。美団本部からライダーを増やせと指令が出て、各地の請負会社同士がライダーの取り合いにもなってます」

1時間以内に「即時配送」、中国の新たな消費トレンドに

武漢の高徳ドライバーD氏「4年前の補助金は現在よりもはるかに高くてよかったです。ここ数年の大きな変化の一つは、プラットフォームにおけるドライバーの管理がますます厳しくなり、安全運転や交通違反に対する罰金など、多くの管理規定が追加されたことです」

B氏「現在のドライバー評価制度は、乗客の評価ではなくプラットフォームのビッグデータの比重が大きいです。ドライバーの運転時間が安定していて規則的だと配車注文数が改善されます。なので好きな時間に働くというスタイルのドライバーは、注文量の影響を確実に受けます」

ローンチ時に1万元は稼げたのが、時間が経過すると月収が数千元に値下がりする。またトライアンドエラーを重ねてシステムが改善され規制が増えていく。ドライバーにとっていいことは何一つない。転職をする人も多いが、転職をあきらめたり月々の各種ローンのために仕事を継続する人もいる。

アフターコロナの供給過多期

ゼロコロナの一時期ではフードデリバリーのニーズが急増しボーナス時期にはいる。しかしゼロコロナを経てアフターコロナとなるも誰もがドライバーになり稼ぐ環境ではなくなってしまった。

B氏「今は滴滴の繁忙期のはずだけど、1日200元(約4000円)くらいと例年に比べてかなり少ないですね。現在プラットフォームの繁忙時に優先される特典を7.9元(約160円)で購入しなくてはならなくなりました。ドライバーも増えるし、罰金で月に1000元くらいかかる人もいるので、そんなに稼げないですね。だいたい時給30元(約600円)くらいの滴滴のドライバーは多いと思います」

深センの美団ライダーE氏「多くの工場がコロナの影響を受け受注件数は減り閉鎖しました。私は収入源がなくなり、家族を養うためにライダーになる道を選びました。コロナ初期は1日300元以上、月に1万元以上稼ぐことができました。あの頃は本当によかった。でもコロナが終わって今は月に6000元も稼げればよくなりました。もうデリバリーを前より頼まなくなったのだろうか…」

北京の請負業者F氏「アフターコロナで応募者が増えています。20代や新卒の応募者は3割を超えています。卒業直後は応募者は院生も含め多いのですが、定着率が低いので要りません。私たちのお気に入りの年齢は30~40歳の間です。大卒者は雨や冬の日の悪天候には耐えられず辞めてしまいます。採用活動は主に定着期間と安定性を重視してますから」

ゼロコロナ体制では人の移動が制限されデリバリーではちょっとしたボーナスとなるも、アフターコロナにはプレイヤーが急増する。注文の数は変わらないので仕事の取り合いに。人が増えるも誰もがドライバーになれるわけではなく、請負業者が経験を経て生き残るために、責任感のない傾向にある若者を嫌がるようになった。 

サービスのローンチ時には補助金が出るのでサービス提供者も消費者も得をして盛り上がったものの、やがて補助金がなくなり事業者同士の競争過多となり、さらに事業者の守りの姿勢から人の受け皿になるはずだったはずの職種が受け皿でなくなってしまった。

今後も経済状況次第でドライバーやライバーが多く働けば、それだけ各人の割り振りは少なくなる。安い所得でなんとか食い繋いでいく人もいそうだ。他の中国のネットサービスでも似たような傾向があるので「新規サービスの御利用はお早めに」が中国ビジネスの鉄則かもしれない。

生活関連サービス「美団」、22年売上高は約4.2兆円 フードデリバリー注文1日6000万件突破

(作者:山谷剛史)

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