22歳の北京大研究者、「汎用世界モデル」で160億円調達 物理AIに挑む

生成AIが言葉を理解する大規模言語モデル(LLM)の次として、「世界モデル」が注目を集めている。中国スタートアップ「逆矩陣科技(Physis)」は、ロボットやゲーム、デジタルツインなど幅広い分野で活用できる汎用世界モデルの開発に向け、追加シードラウンドで1億ドル(約160億円)超を調達した。今年3月に1000万ドル(約16億円)超を調達した初回ラウンドから、わずか数カ月での追加調達となった。

今回の出資には経緯創投(Matrix Partners)、五源資本(5Y Capital)、光合創投(Luminous Ventures)、アントグループなどが参加したほか、高瓴創投(GL Ventures)や燕縁創投などの既存株主も追加出資した。資金は主に汎用世界モデルの事前学習に関する研究開発、および大規模な学習体系の構築に充てられる。

逆矩陣は2026年2月に、北京大学の若手研究者である陳博遠氏(22歳)と吉嘉銘氏が共同で設立した。メンバーの半数はAI分野の若手研究者で、残る半数は大手テック企業の出身者で構成されている。

「世界」を理解するAIとは

LLMとは異なり、世界モデルはAIに現実世界の物理法則を理解・予測させる技術だ。例えば、ロボットがコップを押したり、つかんだりする時に、それが倒れるのか、ほかの物とぶつかるのか、滑り落ちるのかといった結果を予測する役割を担う。

逆矩陣はこのほど、汎用世界基盤モデル「Physis-v0.1」を発表した。物理法則を忠実に再現するほか、長時間にわたる一貫性、動作と結果の因果関係、異なる場面にも対応できる汎化能力を特徴としている。

現在の世界モデルの多くは動画生成技術の延長線上にある。一般的な動画にはテクスチャーや光、背景など大量の視覚情報が含まれているが、十分な物理法則が含まれているとは限らない。しかも、観察を通じてAIモデルが学習できるのは出来事の関連性にとどまり、現実世界で必要とされる物理的な因果関係は学べない。例えば、AIモデルはコップが倒れたのを認識するだけでなく、どの方向にどれほどの力を加えたことで倒れたのかを理解する必要がある。

そのため、同社は画像の全画素を直接処理するのではなく、抽象的な特徴を抽出した「物理的な潜在空間」でAIモデルをトレーニングする手法を採用した。速度や力のかかり方、位置の変化、動作の結果といった情報を重点的に学習することで、無関係な視覚情報の処理で計算リソースを消費するという問題を回避している。

トレーニングでは、動作信号をAIモデルに直接入力し、どの動作がどのような結果を引き起こすかを学習させる。さらに物理法則の自動検証環境を構築し、「物体が突然消えることはない」「車両は壁を通り抜けない」「液体は固体のように形状を維持しない」といった物理法則に基づいて出力結果をチェックすることで、現実には起こりえない現象を生成する「幻覚(ハルシネーション)」の低減を図っている。

ロボットもゲームも、土台は1つ

現段階で、同社は特定の業界に絞った大規模な商用化を急いではいない。目指すのは、ロボットやゲーム、産業シミュレーション向けにそれぞれ異なるAIモデルを開発することではなく、まずは物理法則を理解する基盤モデルを構築し、そのうえでエンボディドAIやデジタルツイン、ゲーム内の物理演算、科学的予測などの分野へ幅広く展開することだ。つまり、基盤モデルで重力や衝突、摩擦、変形など基本的な物理法則を理解し、上層のアプリケーションで実際の用途に適応できるように調整するという考え方である。

逆矩陣は2026年末にフラッグシップモデルを発表する計画で、それまでに一部のAIモデルやテクニカルレポートを順次公開していく予定だという。

陳氏は、世界モデルは短期的にはUnityやUnrealなど従来のゲームエンジンを補完し、将来的にはそれらに取って代わる存在にもなり得ると考えている。AIモデルの性能が高まるにつれ、ロボットは「人が設定したルールを実行する」段階から、「法則を理解し、自律的に推論する」段階へと進み、最終的にはフィジカルAIを支える基盤インフラになるという。さらに、今後18~24カ月で世界モデルの性能が飛躍的に高まり、約3年以内には複数の実環境で活用されるようになると予測している。

*1ドル=約160円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

日本企業のDXを促進するプラットフォーム「CONNECTO」
無料コンテンツ公開中

最新記事