脱EV一辺倒 中国・吉利、熱効率48.41%の新HEVシステム発表

中国の自動車メーカー「吉利汽車(Geely、)」は2026年4月13日、新世代のストロングハイブリッドシステム「i-HEV」を発表した。

中国の民営自動車メーカーとして2番目の規模を誇る吉利は、1996年に李書福氏によって設立された。1998年には倒産した自動車工場の設備と製造免許を獲得し、初の量産モデル「豪情」をラインオフ、2001年に正式な自動車メーカーとして認可を受けた。2010年にスウェーデンの「ボルボ」を買収したことで世界的に一躍有名となり、その後も2017年の英ロータス買収など、著名ブランドを次々と傘下に収めてきた。2025年にはグループ全体で年間約412万台を販売し、世界第9位の自動車グループへと成長を遂げている。

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巨大競技場で「国力」アピール

「北京モーターショー2026(4月24日〜5月3日)」の開幕を控えた今回の発表会は、吉利の本拠地である浙江省杭州市「奥体中心(游泳館)」で開催された。会場となった巨大な水泳競技場には、「i-HEV」の派手な装飾が施され、世界中から招待されたメディア関係者を圧倒する規模であった。演出は、中国の自動車メーカーらしく、豪華絢爛な演出で来場者を迎えた。

巨大な水泳競技場で開催された「i-HEV」の発表会

冒頭では鉄道や宇宙開発、各種産業を象徴する映像で中国の国力を強調し、そのうちのひとつを自動車産業、そして吉利が支えているという内容であった。発表の途中、i-HEV車種をお披露目する場面では舞踊のパフォーマンスが行われたが、これも中国の新車発表あるあるだ。

最後には吉利オリジナルの歌を全員で披露する演出など、日本や他国の自動車メーカーでは見られない超ド級のスケールに終始、圧倒された。

脱・EV一辺倒、メタノールも視野に

多くの中国メーカーが電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)といった新エネルギー車(NEV)に注力する中、吉利のパワートレイン戦略は多少異なる。

BEV/PHEV以外に従来のストロングハイブリッド車(HEV)やメタノール燃料電池車への研究や投資も惜しまず、幅広い選択肢を取り揃える。特にメタノール燃料電池に関しては吉利の商用車部門「遠程新能源(Farizon Auto)」から展開、これまでに6万台以上を販売し、900カ所以上の充填ステーションの建設に関わってきた。

2026年中にはメタノール燃料を用いたハイブリッドの乗用車も量産開始を予定しており、原油高が家計に大きな爪痕を残す中、一般消費者の新たな選択肢になる可能性を秘めている。

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競合BYDを凌駕する、熱効率48.41%

今回新たに登場した「i-HEV」は日系メーカーがかねてより得意としてきたガソリンを用いるハイブリッドで、外部からの給電が可能なPHEVとは異なる。エンジンには1.5リットル直列4気筒ターボエンジン、2.0リットル直列4気筒ターボ、そして1.5リットル直列4気筒自然吸気ユニットの3種類を用意し、車種によって使い分ける。

Geely新型i-HEV

HEVやPHEVに注力する中国メーカーはエンジンの熱効率を互いに競い合っており、吉利も2021年に43.32%、2023年に44.26%、2024年に46.5%、2025年に47.26%と、毎年熱効率を改善させているようだ。そしてついに今回のi-HEV用エンジンでは48.41%を達成したと主張し、PHEV販売におけるライバルの「BYD」を大きく上回る数値を叩き出した。

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「EVらしい走り」を追求したモーター中心の設計

Geely 新型i-HEVのパーツ

この熱効率の向上により、ガソリンを燃焼して得られるエネルギーが実際の走行や発電に使えることを意味する。そこへ電気モーターを組み合わせることで、市街地や低速度、渋滞環境では電気で駆動、高速道路などではエンジンを使用し、モーターとエンジンの互いが不得意とする領域を補う設計である。

吉利のi-HEVは昨今の中国メーカーを中心に広がる「モーター中心のHEV」で、時速66キロメートルまではモーターで走れるとしている。従来のHEVと比べて電気で走れる領域はかなり広いが、これにはバッテリーの大容量化が不可欠となる。

日系メーカーのHEVが容量1〜1.5 kWの駆動用バッテリーを搭載する中、中国メーカーのHEVシステムでは1.83 kWが主流となってきており、i-HEVもSUV車種ではこのサイズのバッテリーを搭載する。これに加え、駆動用モーターでは最高出力230 kW(308 hp)の駆動用モーターも搭載、世界でもっとも高出力なHEVであると自負している。

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補助金削減を見据えた「高コスパ・低燃費」への回帰

吉利のエンジニアによれば、i-HEVの肝は「HEVでもEVらしい走り」を追求した点だと言う。中国はBEVやPHEVの市場が非常に大きく、インフラ整備も他国以上に整っている印象だが、一方で航続距離の不安や販売価格の高さでガソリン車やHEVを選ぶ消費者はいまだ多い。

政府によるBEVやPHEVへの購入優遇措置も削減が進む中、より価格の安いHEVが今以上に注目されることだろう。そうしたHEV需要に応えるべく、より電気駆動の割合を増やして低燃費化、そしてパワフルな走りを実現したのが今回のi-HEVとしている。

Geely i-HEVを搭載した星越L

i-HEVの搭載車種としてセダン「星瑞(Preface、プリフェイス)」とSUV「星越L(Monjaro、モンジャロ)」の新モデルも同時に発表され、それぞれの燃費は25.12 km/Lと21.05 km/Lとなる。今後1〜2年で小型セダンや大型SUVなど4車種のi-HEVを投入するとしており、従来よりもHEVのラインナップを拡大させていく。

消耗戦の国内を飛び出す

EVらしい走りを追求したHEVは、EV開発を通して技術力を上げた中国メーカーならではの動きと言える。BEV市場の失速が指摘されている中、吉利以外にも長安汽車などが北京モーターショー2026開幕を前に新たなHEVを発表しており、この動きが他のメーカーにも広がるかが注目だ。

売れない国内、急拡大の海外——中国自動車市場、1〜3月期の明暗

BEV販売において世界首位に立ったBYDは2022年に純ガソリン車の製造・販売を終了し、BEVとPHEVの二刀流で戦っていく方針を打ち出した。一方でBYDの販売は下落傾向にあり、2026年第1四半期(1〜3月)の販売は前年同期比31%減少の68万8000台を記録、国内市場における消耗戦のような競争と優遇政策の削減の煽りを受けた結果となった。

ただ、BYDの海外事業は好調で、2026年第1四半期の販売のうち56%が海外での販売となった。中国と比べてBEV/PHEVの安い選択肢が少ない海外市場を攻めていく姿勢は間違いなく成功していると言える。HEVに注力する吉利や奇瑞汽車(Chery、)も新興国を中心にじわじわと人気を伸ばしており、中国勢の主戦場は、過熱する国内市場を飛び出し、海外という新たなステージへ移りつつある状況だ。

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(文:中国車研究家 加藤ヒロト)

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