参加者も出展者も騙された「中国版CES」。24万円払ったロボット起業家の愚痴が止まらない【駐在員が見た中国】
「ハイテク中国」にあるのは大きな市場や技術だけではない。
本連載では、日中経済協会北京事務所副所長の宮奥俊介氏が日々中国の現場を歩き回る中で体験した熱気、興奮、期待そして期待外れや裏切りも含め、リアルな姿を伝える。
初回の舞台は「CES Asia」。ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市のアジア版と聞き、期待を胸に会場へ向かった。しかし、そこで待っていたのは、閑散とした会場と、「騙された」と憤る若きロボット起業家だった。
CESが北京で?即申し込み
ロボットハーフマラソン、北京国際モーターショーと注目イベントが目白押しの北京。筆者も現場に足を運び、その熱気を感じながら「ハイテク中国」を追いかける日々だ。
北京には国家会議中心(オリンピック公園に所在)、中国国際展覧中心順義館(前述のモーターショーや中国国際サプライチェーン博の会場)、北京首鋼会展中心(中国国際サービス貿易交易会の会場)といった大型コンベンションセンターが、いやいや多すぎではと思うほどあり、毎週のようにイベントが開催されている。イベントの開催情報はウィーチャットの各政府機関などの公式アカウントで発信されるのだが、その中に話題を集めるロボットの画像とともに表示された「CES Asia亜洲電子博」(以下、CES Asia)なるイベントがあった。
CES(Consumer Electronics Show)といえば毎年米ラスベガスで開催される巨大家電見本市だ。こちらCES Asiaはその名の通り、同見本市のCESアジア版との触れ込みで(少なくとも筆者はそう読んだ)、華やかなりし人型ロボット、AI、スマート家電などの国内外有名ブランド・メーカーが出展予定!とあった。それならば、とすぐに参加登録(外国人は早割で約60元)、6月10日の開幕を今か今かと待ちわびた。
会場に入るなり違和感
さて迎えた当日。会場は北京経済技術開発区(亦庄)にある亦創国際会展中心。周辺は百度アポロパーク、人型ロボットの研究開発センター、小米EV工場など数多くのハイテク産業が集積し、近くには自動運転車も走っている。こちらの亦創国際会展中心では昨年8月に世界ロボット大会も開催された。

会場風景
はやる気持ちを抑えながら会場に足を踏み入れた筆者を待っていたのは、閑散としたブースとまばらな来場者。一瞬、「朝早過ぎたのかな?」、「ここはメイン会場ではないのかな?」との疑念が過ぎるも、どうやらそんな様子でもない。入口付近に昆山市が地元メーカーをかき集めてブースを出している以外は、失礼ながら全く聞いたことのない人型ロボット、スマート医療機器などの企業ブースが並ぶ。何より人が少ない…。出展ブースのスタッフも暇そうにひたすらスマホいじりをしている…。

商談会エリアも人影まばら

昆山ブース
「騙された」出展企業も怒り心頭
何だか変だね、と一緒に参加した同僚たちと話していた筆者の目の前、日本の戦隊モノヒーローを思わせるロボットとともに男性スタッフがたたずむ「Rotaku」というメーカーの小さなブースがあった。
何気なく近づいて話してみると、男性はこの零細ロボットメーカーの老板(ラオバン、経営者)で、千葉県内の高校に進学、その後、東京都立大を経てウィスコンシン大学とカリフォルニア大学バークレー校でコンピューターサイエンスを学び、24歳で起業したと自己紹介した。彼はこちらが日本人と分かると冗談を交えながら気さくに企業紹介をしてくれたものの、「ここに出展してみて、お客さんの反応はどう?」と問うとその表情は一変した。

“中国版CES”で出会ったロボットメーカー「Rotaku」の経営者、盧卓然氏。千葉の高校、都立大で学び、深圳で起業した。
「完全に騙された」、「ラスベガスのCESに出展した際に声を掛けられて参加したのに、本物のCESとは何の関係もないイベントだった」、「9平方メートルのブースに1万元(約24万円)も払って出展したのに初日の昨日からほぼ客はいない」、「逆に会場内で営業活動を行っている、招商銀行からクレジットカード加入の勧誘を受けたぐらいだよ」と怒りをぶちまけ始めたのだ。
テスラ、エヌビディアは影も形もなし
彼の怒りは止まらない。「僕だけじゃなくブース出展企業は、皆騙されたと怒っている」
「もっと広い面積でブースを出展した企業の中には10万元(約240万円)以上支払ったところもある」、「昨日は皆で警察を呼んだんだ」
そう言われてCESと書かれた看板もよく見ると、「Consumer Electronics Show Asia」「Creative Exhibition Supporting Asia」と名称が一致しない。ちなみに本家の正式名称は「Consumer Electronics Show」である。
その後の顛末は聞いていないため、北京のCESの正体は分からない。SNSの公式アカウントではテスラやエヌビディア、ファーウェイといった有名メーカーの名前を掲載していたが、出展予定とは書いていなかったかもしれない。しかし、今年2月に習近平国家主席がここ亦庄を考察(視察)した際の写真を引用して、イベントをアピ―ルしているし、何だかモヤモヤする。いやいや60元(約1400円)は勉強代にし、もう何も言うまい……。
ちなみにCES Asiaは上海でも2019年まで開催されており、こちらは米CESの運営団体が主催していた。

「Consumer Electronics Show Asia」と「Creative Exhibition Supporting Asia」で展示されていたロボット
大手のオッサンには負けない
さてこんな貴重な話を聞かせてくれた彼は、盧卓然氏と名乗った。自身の名から命名した「Rotaku」は前述の通り、戦隊モノのような人型ロボット(ヒューマノイド)を主力製品としている。彼はイベントへの怒りを一通りぶちまけた後、ロボット開発にかける思いを熱く語り始めた。
「僕たちはフルスタックで製造しているけど、いま市場シェアを占めている某トップメーカーたちは考え方を間違えている」「ヒューマノイドを作るならデザインが大事なのに、だいたいのブランドのロボットはみんな同じようなデザインだろう」。ふむふむ、それはそうかも知れないねと返すと、更に続ける。
「僕ならそんなもの絶対買わないね。ヒューマノイドは歴史上、最も人間とつながりが深い人工物だ」「情報、エンターテインメント、製造の全ての入り口にもなり得る。そしてグローバル市場で3%のシェアを獲得できれば1兆ドル(約160兆円)の企業になれる。それだけの価値があるし、ポテンシャルは限りないんだよ」
話題があちこちに飛びながら、話は終わらない。「中国の問題は安さを追求し、使いやすいものばかりを作ってきたことだ」「これからはロボットだってデザインが命だろう。ただの機能じゃなく、アップルのように憧れられるデザインのロボットを作らないといけないんだ。大手メーカーのオッサンたちはダサい。そんな奴らに作れるわけがない!」
盧卓然氏によると、「Rotaku」にはマイクロソフトの4番目に偉い人が出資してくれたという。
雨後の筍のように生まれるロボットメーカーたちの競争は激しさを増している。けれどこんなに気持ちを込めて、熱い思いを発する彼の姿は何だか羨ましくもあった。景気低迷が叫ばれて久しく、失業率は高止まり、競争に疲れた若者たちはただスマホゲームで日がな一日を過ごす。それも一面だろうが、彼のような若者が世間の片隅で日夜、研究開発に没頭するのもまた違った中国の一面だ。この国の底力はやはり侮れない。そんなことを感じながら、帰路に就いたのであった。
※本稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を代表するものではありません。
文:宮奥 俊介
日中経済協会北京事務所副所長。国際物流会社、医療機器メーカー、アパレルブランドなど民間企業での勤務経験を経て2020年8月、一般財団法人日中経済協会に入職。調査部で中国経済情報の収集・発信業務、セミナー運営、ジャーナル企画編集業務を担当した後、2025年から北京事務所駐在。日中間の経済交流や各種イベントの企画運営業務等に従事。