人型ロボット、「触覚データ」争奪へ 中国新興、216センサーを編み込んだ手袋を開発

フレキシブル触覚センサーを手がける中国スタートアップ「尭楽科技(Yotlive)」はこのほど、エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)向けの触覚データ収集グローブ「Tacknit Glove G1」を発売した。手袋の生地そのものにセンサーを編み込み、片手で216カ所の触覚データを収集できる。人型ロボット(ヒューマノイド)などの学習に必要な実世界の触覚データを大規模に集める用途を狙う。

同社は7月、プレシリーズAの追加ラウンドを実施した。鼎和高達(Pagoda Innovation)が出資を主導し、常熟汽飾(Changshu Automotive Trim)と祖竜娯楽(Archosaur Games)が参加した。調達資金はセンシング技術の開発やデータグローブの量産、データ収集体制の構築などに充てる。

ヒューマノイドの開発が進むなか、業界ではロボット本体の性能だけでなく、AIの学習に使う実世界データをいかに確保するかが課題となっている。視覚やテキストのデータはインターネット上から大量に収集できる一方、ロボットが物体に触れたり、つかんだりする際に生じる物理的な相互作用のデータは不足している。なかでも圧力や摩擦、物体の変形といった触覚データは、シミュレーションで正確に再現することが難しく、人が実際に作業しながら収集する必要がある。

こうした背景のもと、ロボット訓練に用いるデータの収集手段として、データグローブが注目を集めている。データグローブは人の手の動作軌道を記録すると同時に、物体を把持した際の応力データも収集でき、ロボットハンドの訓練や世界モデルの構築などに必要な実データを提供する。

しかし、現在市場に出回るデータグローブの多くは、プリント回路や薄膜センサーを布地の表面に貼り付けてあるため、長く使用するとセンサー層と布地層のズレやシワ、手汗が影響してノイズが発生し、データの質が低下してしまう。

尭楽科技のTacknit Glove G1は、感知用の糸と通常の糸を一体的に編み込む独自のフレキシブルセンサー技術を採用した。手袋を編み上げる工程でセンサーを組み込むため、複数の層を貼り合わせる必要がなく、層同士のずれによるデータの誤差を抑えられるという。

布地そのものがセンサーになる(画像は「尭楽科技」提供)

片手に216カ所のセンサーを配置し、指先や手のひらなど主要な接触部分をカバーする。グローブ本体の重さは約60グラムで、装着による手の自然な動きへの影響を抑えた。洗濯にも対応し、汗や皮脂によるデータの変動を抑える。複数のサイズを用意し、長時間のデータ収集でも装着位置がずれにくい設計とした。

グローブ本体と制御ユニットは分離できる。手首に装着する制御ユニットを磁石で接続し、1台のユニットを複数のグローブで使い回せるようにした。グローブ本体だけを消耗品として交換できるため、大規模なデータ収集にかかるコストを抑えられる。

制御ユニットには超広角カメラも搭載し、触覚、手の姿勢、画像を同時に収集する。出荷時にあらかじめキャリブレーションを施し、触覚データと画像の時間軸を同期させることで、収集からデータのクリーニング、AIモデルの学習までを一貫して処理できるようにした。

「Tacknit Glove G1」の構造

G1はすでにロボットハンド大手のサプライチェーンに組み込まれ、評価試験が進められている

尭楽科技はハードウエアの販売に加え、データの収集やキャリブレーション、クリーニング、マルチモーダルデータの時刻同期なども手がける。顧客がAIモデルの学習に直接利用できるデータを提供し、長期的にはエンボディドAI向けの触覚データ基盤の構築を目指す。

創業者兼最高経営責任者(CEO)の呂莉蘊氏は、車載オーディオ機器などを手がける米ハーマンでチーフアーキテクチャエンジニアを務め、マルチモーダルセンサープラットフォームの開発に携わった。呂氏は、ロボット産業の拡大とともにデータグローブが消耗品に近い存在になっていくとみている。耐久性だけを追求するのではなく、使用期間中のデータ精度を維持しながら、低コストで容易に交換できることが重要になると指摘する。

同社は自動車(スマートカー)やエンボディドAI、医療・介護、ウェアラブル機器などに事業を展開する。2025年には大手高級車メーカーのスマートシート向け圧力センシングシステムの主要サプライヤーとなり、量産・納入を開始した。複数の大手自動車メーカーからも受注しているという。

エンボディドAI向け事業も拡大しており、同社は2026年の売上高が前年比約10倍になると見込む。このうちデータグローブ関連が約半分を占める見通しだ。

(翻訳・田村広子)

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