中国で「不完全なAIドラマ」が人気の理由 量産ブームで誰が稼ぐのか
中国のショートドラマ利用者は、インターネット利用者の6割弱にあたる6億6400万人に達している(CNNIC調べ)。すでに大規模な日常娯楽になっており、若者だけでなく高齢層まで夢中になっている。さらに近年では、AIを活用した作品の供給と再生数が急増している。
調査会社DataEyeの「2026年上半期AI劇・漫劇データ報告」によれば、抖音(中国向けTikTok)で新たに公開されたAIショートドラマは約22万作品余りで、その累計再生増加数は5000億回を超える。これは純粋な視聴者数ではないものの、制作側だけでなく消費者の間でも多数のAI映像が消費され、広く受け入れられている実態を数値として物語っている。
2分で逆転劇、作品名を覚えなくても楽しめる
ショートドラマの一話は短い。中国の作品では「主人公が理不尽に扱われ不幸となるが、隠された身分や能力を使った逆転劇」が定番だ。極端な例では、わずか2分の中で屈辱と生命の危機から転生までがコンパクトに収まっている作品もある。この型なら詳しい背景説明がなくても、誰を応援し、どんな展開を待てばよいかが分かる。このように消費者の見るハードルはとても低い。
多くの消費者からすれば優れた新作に出会いたい気持ちは二の次で、暇つぶしや気分転換として作品名すら覚えないまま見続けている。映画や一般のドラマのように、評判や物語の背景、監督の意図、キャストのこだわりなどを調べて深める必要もない。AIショートドラマは動画消費のスタイルすら変えている。
猫もゴキブリ人間も主役に、「不自然だから見たい」
その延長線として、猫をはじめとした動物が人間のように動く作品や、果物のAI キャラクターや、さらにはゴキブリ人間、タツノオトシゴ人間が登場するAIショートドラマも出現。奇抜な姿であってもストーリーの軸は同じであり、「小さな生物が仲間外れにされ、力を得て仲間を救う」といった構図だ。そんな架空の話なら、その生物の生態を知らなくても、「認められなかった主人公が認められる物語」としてスムーズに理解できる。

DataEyeによるショートドラマ責任者の李蓦氏へのインタビューでは、李氏は、最初は物珍しさで関心を集めても、継続視聴を得られるかは内容次第だと説明している。また、実写風AI作品では微妙な表情への要求が高い一方、3Dショートアニメは細部の粗さに対する受け止め方が異なるとも述べる。
AI動画だと細かなおかしい点にツッコミを入れたくなる感覚は、中国の視聴者も同じだ。その違和感を認識したうえで、それを味わう、「不自然だからこそ見たい」といったニーズもまたある。実際ショートドラマアプリをスワイプしていると、続々と「そんなことはありえない」といった動画がでてきて、そうした内容にはツッコミが入っている。B級作品が一部の中国人消費者の心を確実に掴んできている。
再生数を収益に変える鍵は「原作」と「続き」
とはいえ、ただ世の中のニーズに合わせて勢いだけで作った設定やシナリオが手抜きの作品ばかりではなく、原作ありきのAIショートドラマもある。コンテンツの更新に追い付いた視聴者が、続きを知りたくなりオンライン小説サービスで原作を探し、物語を最後まで読むというのは珍しくない。原作を持つ企業にとってこの誘導は重要だ。
そんなAIの積極的導入が進むこの業界だが、これだけ低価格で作れる動画が視聴され消費をされていても儲ける企業は少ない。AIショートドラマ制作企業の「90%以上が消えた」という記事や発言も見られる。誰もが人気ジャンルに参入し、結果としてバブルが崩壊するという、中国市場でしばしば見られる現象が発生している。
市場で利益を得ているのは主にプラットフォーム側だ。視聴者が作品Aに飽きてスワイプして作品Bへ移って利用を続ければ広告を表示できるからだ。一方作品Aの制作会社は、自分の作品から配分される収入で費用を回収しなければならない。個々の作り手にとっては、視聴者が去れば収入の減少につながる。
この状況下で視聴者をつなぎ留めるため、制作会社は独自の原作やキャラクターを保有し、続編を待つ視聴者を獲得しようと試みている。「単発の作品を作れる」状態から、「作品の続きを保持している」状態へ転換できれば、単純な価格競争から距離を取れる可能性がある。
「安く作れても儲からない」課題
「AIを使えば一律に安く作れて儲かる」とは言い切れない事情もある。人手をかける作品もあれば、自動化によって計算リソース費用が大部分を占める作品もある。また制作側の観点からは、納品時に一定の収入を得る案件と、公開後の視聴実績に応じて収入が変わる案件とでは負担するリスクが異なる。
仮に、運良く人気を得たとしても、更新ごとに費用が発生する問題が残る。ある動画の制作チームは、計算リソース、人件費、生成のやり直し費用などの負担に対し、収益が回収に届かないとして、更新停止の予定を表明していた。大量の作品が配信される市場では、「全体として長く見られている」ことと、「一本ごとに制作費を回収できる」ことは別問題なのだ。
こうした泥沼の戦いの中で面白いのがオンライン小説プラットフォームの「閲文」の取り組みだ。同社は原作・脚本開発と配信・商業化を自社で担い、視覚制作を外部へ委託している。つまり物語の入口と収益化の出口を押さえ、その間の工程を外部へ発注している。
先行する中国のショートドラマ業界で、AIが下げたのは映像を作り始める壁だった。だが作れることと、見られること、さらには稼げることの間にはなお距離がある。多くの中国の前例において、テックトレンドのバブル崩壊の後に生き残った企業は強くなる。もうしばらくするとAIショートドラマでの勝者の稼ぎ方が明らかになるかもしれない。
(文:山谷剛史)