「紹興酒にザラメ」は日本だけ? 実は地域色豊かな中国酒の奥深い世界と、今注目の“甕出し”飲み比べ
新宿御苑前にある中華料理店「南方急行」では、2026年4月から紹興酒を甕(かめ)で量り売りする企画がスタートした。甕に入った6種類の紹興酒に加え、ボトルの紹興酒も8種類以上そろえており、「いろいろな銘柄を飲み比べできる」と話題を呼んでいる。
紹興酒は実は中国の地域酒
日本で「中華料理に合うお酒」といえば紹興酒を思い浮かべる人が多いかもしれないが、本国・中国での位置づけは少し異なる。紹興酒とは、上海の隣に位置する浙江省紹興市で作られる「黄酒(穀物を原料とした醸造酒のうち、一定の基準をクリアしたもの)」を指す。上海や浙江省、江蘇省といった華東地域では日常的に飲まれているものの、中国全土で見れば、「白酒(パイチュウ)」のほうが圧倒的にポピュラーだ。黄酒自体は紹興以外の地域でも生産されているが、中国全土の流通量や銘柄の豊富さでいえば、やはり白酒に軍配が上がる。
南方急行は上海から雲南省まで列車に乗って移動しながら各地の料理を味わう世界観を掲げる店だ。これまでも紹興酒を甕から自分で注いで楽しめる飲み放題メニューなどは用意されていた。しかし、オーナーのムーさん自身が中国北部の大連出身ということもあり、地域色の強い紹興酒へのこだわりはなく、「多様な紹興酒を飲み比べる」という発想はなかったという。逆に、大連でなじみ深い白酒のほうは、早くからグラスでの飲み比べをメニュー化していた。

南方急行の外観
日本で知名度が高い紹興酒を深掘り
一方、日本では台湾経由などで古くから紹興酒が持ち込まれた歴史があり、「中華に合う中国酒」として定着した。日本人向けの中華料理店にはたいてい置いてあるため、思わず頼みたくなる人も多いだろう。
南方急行で紹興酒の量り売りが始まったのは、ある偶然がきっかけだった。5月に中野で開催された「四川フェス」の企画・運営や、消費者団体「羊齧(ひつじかじ)協会」の主席を務める菊池さんから「学生時代に紹興を訪れた際、甕で量り売りされていた紹興酒が美味すぎて飲み過ぎた」というエピソードを聞いて、ムーさんの頭に「甕での量り売り」というアイデアがひらめいた。
「日本人にも知名度と人気がある紹興酒を、現地のように甕から飲み比べられたら楽しいのではないか」「種類や銘柄がこんなに豊富であることを知ってもらえれば、日本のお客さんにもっと喜んでもらえるはず」。ムーさんのそんな思いから、紹興酒量り売りの企画がスタートした。さらに、中国酒の専門家として活動する門倉さんもメンバーに加わり、銘柄の選定やそれぞれの解説、店内に設置された「紹興酒屋台」での販売などを担当することになった。
現在、お店では6種類の甕出し紹興酒と8種類のボトル紹興酒がワゴンで販売されている。ワゴン販売は、店のコンセプトである「列車の車内販売」をイメージしたものだ。ちなみに門倉さんのイチオシは、甕出しでは珍しいノンカラメル仕立てでスッキリと飲みやすい「白塔(バイター)」。そしてボトルなら、独特な燻製香があって個性的な味わいながらも、同店の料理とのマリアージュが抜群に面白い「即墨老酒10年(ジーモウ)」だという。

ワゴンで販売されるボトル紹興酒

6種類の甕出し紹興酒
本場はストレートで飲む
4月に紹興酒量り売り企画が発表されて以降、同イベントは4月13日、5月13日、5月30日とすでに3回開催された。初回となった4月13日は70人もの参加者が詰めかけるほどの人気だった。宴会の様子をレポートした動画を見ても、多くの人が飲み比べを心から楽しんでいる様子が伝わってくる。 参加者の間では、甕出しの「王宝和(ワンバオフー)」や、ボトルの「朱鷺黒米酒(ヘイミー)」が特に人気の銘柄として支持を集めていた。
筆者も4月上旬に開催されたプレイベントに参加したが、実際に飲み比べてみると、銘柄ごとにコク、深み、甘みが違うと分かり、「自分の好みの銘柄」を発見する楽しさがあった。 ムーさんは「量り売りを通じて、紹興酒が持つ甘さ、苦さ、辛さといった多様な風味を体験し、飲む楽しさを知ってほしい」と語る。
ちなみに、日本では紹興酒にザラメを入れる文化があるが、現地・紹興では基本的にストレートで飲む。諸説あるが、かつて日本に紹興酒が持ち込まれた当時、輸送や保存の品質が十分でなかったため、特有の苦みや酸味を和らげて飲みやすくするためにザラメを入れたのが始まりと言われている。
近年のガチ中華の流行に合わせて、「白酒」が推される場面も増えている。しかし、白酒はアルコール度数が30〜50度と高いため、どうしても酒好きや玄人向けになりがちだ。その点、紹興酒は15度程度とマイルドで親しみやすい。町中華やバーミヤンなどのチェーン店で一度は飲んだことがある日本人が多いため、「なじみがあるからこそ、一歩踏み込んで深掘りしてみたい」という知的好奇心を刺激しやすいのではないだろうか。

4月上旬に開催されたプレイベントの様子。門倉さんの紹興酒解説も楽しさの一つだ
さらに南方急行が提供する中国南部の料理は紹興酒と相性が良い料理が多い。宴会で提供された前菜には紹興酒を隠し味にした料理もあり、酒を呼ぶテイストになっているのも印象的だった。
紹興酒の量り売りやボトル注文は、通常営業時間中ならいつでも可能。甕出しであれば250ml〜500mlの単位で注文できるほか、3種類・5種類の飲み比べセットも用意されている。ただ、筆者個人のイチオシとしては、甕入り紹興酒6種類が飲み放題になり、お店自慢の料理が10種類ほど堪能できるイベント参加だ。お店のX(旧Twitter)などのSNSで開催告知が出るため、ぜひチェックして参加してみてほしい。

6種類の量り売り紹興酒の解説
(文:阿生)
東京で中華を食べ歩く会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。X:iam_asheng