ガチ中華「豚足飯」、高田馬場と池袋でだけ出店が続く謎
高田馬場や池袋で「猪脚飯(豚足ご飯)」を提供する飲食店が増えている。午後3時になっても行列が途切れないほどの人気店もあるが、他のエリアでは見かけない。
なぜこの2つの街だけではやっているのか、その理由を探ってみた。
行列ができる池袋の人気店へ
猪脚飯が食べられる店は高田馬場や池袋に何店舗かあり、その中で池袋北口の「潮八碗」に行ってみた。週末というのもあるが、午後3時になっても行列ができているほどの人気ぶり。ただし店の回転は早く、10分ほど待つと席に座れた。

池袋の人気店・潮八碗。午後3時でも行列ができるほどの人気ぶり
店内の客のほとんどが中国人の若者で、1人で来ている客が多い。同店の店長によると平日は15〜16時になると少し客足が落ち着くものの、その他の時間帯はかなり多くのお客さんが入っている。週末は列が途切れないほどになるそうだ。
店内ではフードデリバリーの注文を知らせるアラームが頻繁に鳴り、配達員が品物を受け取りに現れる。売り上げのうち約4分の1がテイクアウトやデリバリーだそうで、その比率の高さには驚かされた。作りたてが命の炒め物と違い、猪脚飯は届くまでの間にタレが肉によく染み込み、味がなじんでおいしくなる点も、デリバリーで重宝される理由の一つなのだろう。
看板メニューの猪脚飯を頼むと、ものの数分で運ばれてきた。

台湾式猪脚飯を謳う店も登場している
猪脚飯は中国・広東省掲陽市恵来県隆江鎮発祥のB級グルメで、煮込んだ豚のすね肉をご飯にのせて食べる料理だ。ブルーワーカー向けのガッツリ飯らしく、味付けは濃いめ。日本でいえば牛丼のようなファストフードの位置づけで、一人でサクッと済ませるスタイルの料理だ。地名を冠した隆江猪脚飯という店は広東省だけでなく中国全土で見かける。
ぷるぷるになるまでじっくり煮込まれた豚のすね肉はタレがしみ込んで柔らかく、白いご飯によく合う。卓上に置いてある青唐辛子、赤唐辛子のペースト状のソースをかけるとピリっと味が引き締まりご飯がよく進む。
「普通盛りでもご飯の量は260グラムほどあって、他店の大盛りくらいのボリュームなんです」と同店の店長。腹持ちの良さも、人気の理由の一つなのかもしれない。
複雑な調理スペース不要、原価も安く

池袋だけでも4〜5店舗の専門店がある
池袋に猪脚飯の専門店が登場したのは2021年頃。その後じわじわと数を伸ばしていたが、2026年に入って池袋や高田馬場で新店が続々オープンし、存在感を増した。
猪脚飯の店が増えている理由はいくつか考えられるが、最も大きいのは出店の敷居の低さだろう。猪脚飯は豚のすね肉や豚足を醤油やスパイスで煮込んで作る一品だ。肉の下処理、スパイスの調合や煮込み具合によって味に違いが出るが、一度調理のオペレーションが整えば、調理の難易度は比較的低い。高火力が必要な広い厨房も不要なので、小さな店で十分だ。
原価の面でも有利だ。猪脚飯の主役であるすね肉や豚足は、下処理の手間がかかるうえ可食部も少ないため、ロースやバラ肉といった他の部位より安く仕入れられる。バラ肉で丼を作れば原価率が上がってしまうところを、すね肉や豚足なら肉の量を多く見せながらリーズナブルな価格に抑えられるわけだ。
提供の速さも強みだ。すでに煮込んだ肉をご飯にのせるだけなので調理時間は短く、回転率も高い。牛丼屋と同じビジネスモデルで、小規模な店舗からでも始められる。
高田馬場や池袋でじわりと増えている理由

高田馬場全体が中国人留学生の食堂のようになっている
ただ、出店の敷居の低さは、本来どの街にも当てはまる条件のはずだ。なぜ高田馬場や池袋に集中しているのか。鍵は客層にある。
特に高田馬場は、語学学校や大学入学を目指す中国人向けの塾が集まるエリアだ。ここに通う10~20代の学生たちは、授業の合間の短い休み時間に、サクッと1人で食事を済ませたい。1000円ほどでボリューミーな故郷の味が食べられる猪脚飯は、その需要にぴったりとはまる。
物価高が続く昨今、故郷の味をボリューム満点で味わえるという満足感は、留学生にとって何物にも代えがたい。店側にとっても、原価を抑えながら高い回転率で稼げるモデルで、双方にとってのメリットが噛み合っている。
猪脚飯の店は、オフィスワーカーが働くエリアに近い上野などではほとんど見かけず、エリアによってガチ中華のターゲット客の違いが見えてくる。
麻辣湯(マーラータン)も以前は庶民の日常食として、池袋・高田馬場で店舗を多く見かけたが、トレンド料理に“昇格”し、全国に広がった。代わって猪脚飯が中国人留学生のお腹を満たす役割を果たしているようだ。

留学生が多く集まる高田馬場でも増えている
(文:阿生)
東京で中華を食べ歩く会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。X:iam_asheng
36Kr連載:中華ビジネス戦記