BYDはなぜ日本専用の軽EVを開発したのか 「軽」という最後の聖域に挑む中国勢

軽自動車は、日本の自動車産業が長年築いてきた独自の市場である。車体サイズから排気量、安全基準まで独自の規格が設けられ、海外メーカーが本格参入した例はほとんどない。EVシフトが世界で進む中でも、多くの海外メーカーは日本の軽市場を規模の限られた特殊市場とみなし、専用車の開発には踏み込んでこなかった。

その中で中国自動車大手の比亜迪(BYD)は、日本市場向けに軽EV「RACCO(ラッコ)」を一から開発した。価格や補助金だけでは語れないこのプロジェクトの背景には、日本市場を短期的な販売先ではなく、長期的な成長市場と位置付ける同社の戦略がある。

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開発2年、軽で世界初のSDV

RACCOの開発が本格的に動き始めたのは、2023年に開催されたジャパンモビリティショーだった。BYDの王伝福会長が日本の軽市場への参入を決断し、2025年の同ショーでコンセプトモデルを初公開。そこから約2年をかけて市販モデルへと仕上げた。

軽自動車は日本独自の規格であり、限られた車体寸法のなかで室内空間、安全性、航続距離を両立させる必要がある。車体や電池の専用設計が求められることから、海外メーカーにとっては「非関税障壁」とも指摘されてきた。

BYDは日本の軽自動車とそのユーザーを研究し、既存の海外向けモデルを小型化するのではなく、日本市場向けに一から作り込む道を選んだ。開発は、BYD本社でRACCOプロジェクトの商品総責任者を務める楊歩益氏が率いた。

車両は、同社のEV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」をベースに、独自の「ブレードバッテリー」を車体構造と一体化する「CTB(セル・トゥ・ボディ)」技術を軽として初採用した。

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日本の生活から生まれた装備

日本市場への作り込みも訴求点だ。BYD副総裁でBYDオートジャパン会長を兼ねる劉学亮氏は、梅雨時に濡れた傘を置くと車内が錆びる不便に着目した傘置きや、53度で保温して赤ちゃんにミルクを与えられる哺乳瓶ホルダーなど、日本で暮らす中国人エンジニアが現地観察から着想した装備を紹介した。

仕上げでは国産メーカー出身の日本人技術者も加えた。商品企画部担当部長の田川博英氏が、こうした軽ユーザー目線の使い勝手を解説した。ソフトウエアを無線更新できる「SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)」を軽として世界で初めて採用し、OTAで購入後も機能が進化する。PRアンバサダーには俳優の広瀬アリスを起用した。

「200キロを200万円で」から始まった

グレード名の数字は航続距離を示す。最廉価グレードの「RACCO 200」は容量22.4kWhの電池を積み、一充電走行距離は210km。「RACCO 300 Plus」「RACCO 300 Premium」は35.8kWhの電池で、軽EVとして最長となる320kmを実現した。

BYDオートジャパンの東福寺社長によると、開発は「チャイニーズ軽貨(CK)」というコードネームで進め、本社側には当初から「200キロを200万円で、300キロを300万円で売れる車を作ってほしい」と要望していた。

円安や資材高で開発は難航したが、「200キロを200万円で出せる領域で仕上げてもらえた」と振り返る。プラグインハイブリッドや660ccエンジン版を出す考えはなく、電池とEVのコスト優位性で勝負する。

日本勢の「聖域」に挑む中国勢

かつて日本勢は高品質を手頃な価格で提供する「良品廉価」を武器に世界とEV黎明期の中国市場を開拓した。世界でEVが普及するなか、電池とソフトの強みを持つ中国勢が、競争力ある価格で高性能車を投入する構図へと逆転しつつある。日中関係の冷え込みについて東福寺社長は「中国製は絶対に買わないという層は約25%。もともと追っていない」と冷静だ。

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劉副総裁は「軽EVを1車種で終わらせるわけにはいかない。日本市場から求められる以上は継続的に手がける」と複数モデル展開を示唆した。BYDに続こうという中国勢も現れ、奇瑞汽車(チェリー)系のEMT(横浜市)は軽EV投入へ日本に研究開発拠点を新設した。

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中国勢は欧州で地元勢や日本勢のシェアを奪い始めており、日本勢が長年守ってきた軽という「聖域」へのBYD進出は、新たな試練の始まりとなる。RACCOの214万5000円は、BYDが日本の生活市場に根を張るための、長期戦の入り口の価格でもある。また、補助金で優位性のある日本メーカーも必達目標としてベンチマークせざるを得ず、技術や価格面での高いハードルとなりそうだ。

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(36Kr Japan編集部)

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