人型ロボットに「100万時間」学習データ、中国AI勢が挑む「汎用頭脳」への道

中国のフィジカルAI企業「黎曼動力(Riemann Dynamics)」が8月6日に北京で、合成データサービスの光輪智能(Lightwheel AI)、ロボット向けのデータ基盤やモーションキャプチャ技術を提供する諾亦騰機器人(Noitom Robotics)と戦略的提携契約を締結した。3社は今後、実環境データの収集、シミュレーションによるデータ生成、モーションキャプチャー、学習・評価、世界モデルのインフラ整備などで協力し、2026年末までに、ロボットの学習に使うデータを100万時間分収集することを目指す。

この目標は、現在の業界水準から見て極めて大きな規模である。2026年初めの時点で、高品質なインタラクションデータは世界で数十万時間規模にとどまっている。エンボディドAIの能力創発には、少なくとも100万時間規模の実環境データが必要というのが業界の共通認識だ。

2026年に昆侖万維(Kunlun Tech)から独立する形で設立された黎曼動力は、フィジカルAI向けの世界モデル「Matrix-Game」の開発に取り組み、25年から関連技術を仮想ゲーム環境からロボットへ応用し始めた。26年7月には、初の世界行動モデル「Riemann-1.0」を発表し、ロボット向け汎用基盤モデルの分野に本格参入した。

【募集】深圳の「身体」から北京の「大脳」へ|中国ヒューマノイドの次の競争軸を巡る視察プログラム(10/28〜30)

Riemann-1.0は、家庭向けロボットを評価するベンチマーク「RoboCasa-365」でタスクの平均成功率が62.6%に達した。学習データは23万2000時間を超え、その内訳は約20万時間の一人称視点の動画、1万2000時間の装着型および外骨格型デバイスで収集した人の実演データ、2万時間の実機ロボットとシミュレーションによる軌道データとなっている。

視覚、言語、行動の3要素を統合的に扱う従来のVLA(Vision-Language-Action)モデルとは異なり、Riemann-1.0は動作と映像を組み合わせて処理する。ロボットがどのように動くべきかを学習するだけでなく、行動した後に環境がどう変化するかも予測する。このためには、多様性に富む大量のデータに加え、動作の結果に関する十分なフィードバックが必要になる。

現在、業界で主流のデータ収集方法には実機の遠隔操作、シミュレーション、人の動作を一人称視点で記録した動画の3種類がある。実機を遠隔操作して得られるデータは品質が高い一方、収集コストが高く、収集効率にも限界がある。シミュレーション環境で収集するデータは大量に生成できるものの、仮想環境から実際のロボットに移行した際にうまく機能しないことがある。一人称視点の動画データは大量に確保できるが、ロボットの関節の動きや力加減といった重要な情報が含まれていないている。異なる手法で得たデータをいかに組み合わせるかが、ロボット向け基盤モデルの重要な課題となっている。

今回の提携では、3社がそれぞれ異なる工程を担い、データ収集から活用までを補完し合う。

Riemann Dynamics×Noitom Robotics

Riemann Dynamics×Lightwheel AI

光輪智能は主に、シミュレーションや一人称視点の動画データ、学習・評価のためのインフラを提供する。同社のデータプラットフォーム「EgoSuite」は、2万5000以上の環境ノードと10万種類のタスクをカバーしている。両社は、Riemann-1.0が移動や操作、物体との関わり、家庭向けサービスなどでどのようなデータを必要としているかを分析し、データの収集と生成につなげる。さらに、評価結果を次のデータ収集に生かし、「モデルの学習→評価→データ補充→再学習」というサイクルを確立する。

中国のAI合成データ「光輪智能」、評価額3200億円を突破

一方、諾亦騰機器人は、モーションキャプチャーや遠隔操作、高精度なマルチモーダルデータを提供する。全身の動きや細かな手先の操作、家庭でのさまざまな動作をデータ化し、3次元の動作軌道、関節の状態、力加減などを記録できる。こうしたデータを活用することで、Riemann-1.0が複雑な操作や発生度の低いタスクにも対応できるようにし、異なるロボット本体への応用力を高める。

「新しいロボットが出るたび、学習し直し」の絶望を終わらせる。Noitom Robotics「人間起点のデータ活用」とは

黎曼動力は、基盤モデルと学習システムを統合し、異なるソースや形式のデータを一元的に世界モデルの学習に活用する。

100万時間は、データ量を拡大する上での中間目標にすぎない。より重要なのは、特定のロボットメーカーの自社データだけに依存せず、実環境でのデータ収集やシミュレーション、一人称視点の動画、モーションキャプチャーなど、さまざまなデータソースを組み合わせ、オープンなデータ基盤を構築するという新たなアプローチを検証することにある。

この取り組みが基盤モデルの性能向上につながれば、ロボットがより多くの実環境で運用されるようになり、新たなデータが蓄積され、それが再びロボットの学習に生かされるという好循環が形成される見込みがある。

ただし、データ量を増やせば技術的な優位性が得られるわけではない。最終的な性能を左右するのは、データの質や多様性、失敗事例をどれだけ含んでいるか、アーキテクチャとの適合性などだ。黎曼動力にとって100万時間のデータ収集は、異なるロボットや用途に対応できる汎用的な「頭脳」を構築するという長期目標に向けた重要な一歩といえる。

ヒューマノイド実用化、1000億件のデータがあっても足りない——中国で急拡大する「データ訓練」の現場

(翻訳・HU XIN)

日本企業のDXを促進するプラットフォーム「CONNECTO」
無料コンテンツ公開中

最新記事